Dressup















着替えをすませてドアを開けると、ソファにちょこんと座った弟が「わあ、きれいだね!」と可愛らしい声をあげた。

「姉さん、まわってみて?」

うきうきとした声が、首を小さくかしげておねだりするのに、エドはしぶしぶとその場で一回りした。

「チューリップみたい!」

赤いドレスのすそがふわりと広がるのを弟がそんな風に例えると、隣に座っていたホークアイ中尉が口元に手をあてて微笑んだ。

手放しに褒める弟に恥かしくなって、エドは眉間に皺を寄せた。馬鹿アル、と。心の中で小さく呟いて、でも嬉しくて。エドは裾を気にするフリをしてうつむいて、笑う口元を2人から隠した。

「やっぱり、ぴったりだったわね。私はもう着られないから、もらってちょうだい」

司令部に顔を出した姉弟を呼び止めて自宅へ招いた中尉は、微笑みを浮かべたままそう言った。

「中尉のおさがりか」

「ええ。そんな華やかな色の服はもう似合わないんだけど、気に入っていた服だから処分しそびれていたの。あなたがもらってくれたら嬉しいわ」

エドが気を使わないように、そして断りにくいように、中尉はそう答えた。頭が良くて気の回る女の人はやりづらい。エドは笑う顔を苦笑にかえた。スカートだってはくことなどないのに、ましてやドレスなど着てゆく場所もない。もらっても荷物になるだけだし、なにより無駄にしてしまう。

だから本当は断らなければいけないのだが、中尉の気遣いと気持ちは嬉しいし。

なにより。

エドはちらりと中尉のかたわらに視線を向けた。

表情のないはずの鎧の顔は、うきうきと浮き立って嬉しそうだった。

アルが喜んでるし。しかたないな。

笑みを押し隠しながら俯いて、ひらひら揺れる赤い裾に視線を落としたエドの耳に、「でも、そんなことないですよ、中尉」と声が聞こえた。

「今も、中尉によくお似合いになると思います」

それはそれは誠意のこもった声で、にっこり笑いかけるような可愛らしさで。エドの弟はそう言った。

「あら、ありがとう。アルフォンスくん」

涼しげな目を瞬いて、ホークアイが微笑みとお礼を返す。ついさっきまでエドに向けられていた目は、今は中尉を見て、「本当ですよ」と念を押している。

エドはスカートの裾をぎゅっと握った。

「……やっぱ、いいや、中尉。せっかくだけど。俺たち旅暮らしで荷物増やせないし、スカートはく機会もないし」

「スカートじゃなくてドレスだよ、姉さん」

訂正する弟を、エドはきっと睨んだ。

「どっちだって一緒だろ」

「でも、とっても似合ってるのに」

「似合ってても、着てくとこなかったら無駄になる」

「それはそうだけど」

うーん、と。弟は鎧の頭部を可愛らしくかしげた。








「だったら、たまに着て、僕に見せて。だって、姉さんすごく綺麗だもん」








これは弟はむやみにもてそうだ、と。

女性を褒めることに関しては手を抜かない男の例を身近に思い出し、ある意味これから苦労するだろうと、リザは真っ赤になって俯いてしまった少女に同情した。

















お題「ドレスアップ」/04.06.02 ハナ