Cooking



















昼寝から起きて弟の姿を探すエドは、食欲をそそる匂いにつられるようにキッチンのドアを開けた。

「あ、姉さん。ちょうど良かった。ちょっと手伝ってくれる?」

振り返った弟(フリル付の白いエプロンはがんとして拒否して着用してくれない)が、ナイフでジャガイモを剥きながらにこっと笑う。アルにしたら何気ない表情なのだろうが、姉にとっては頼まれないことだってなんだってしてやりたくなるような可愛らしさだ。

でれでれしてしまう表情をひきしめて、エドは「なにを手伝えって?」と了承を返しながら弟の隣に並んだ。

シンクに置いてある食材は、むきかけのジャガイモとにんじんとキャベツとなんかしらん野菜がいくつか。

あれだな、ポトフとかゆーやつだ。

素朴で温かい味のする、アルの得意料理。これから夕飯のメニューになる材料たちの中から、アルは皮を剥いてあるにんじんをエドに手渡した。

「これ、切ってもらえる?」

「ん、どんぐらいだ?」

「いつも姉さんが食べてるのと同じぐらいだよ」

赤いにんじんを片手にもてあそびながら、「姉さん、アルのを食べさせてもらったことないけどなあ」と、うっかり親父じみたセクハラ発言をしそうになるのを、エドはすんでのところで我慢した。

にこにこ音がしそうな雰囲気の弟の機嫌が急降下することは、さすがにエドもわかっている。せっかくのいい感じを台無しにするのは得策ではない。

「わかるよね?」と可愛らしく小首をかしげる弟に、エドは「おう」と請け負った。正直、見た目よりも味と量とを重視するエドは皿の中のにんじんの大きさも切り方も気に止めていなかったが、多分一口大ぐらいだろう。

ナイフをとって、ざくざくにんじんを切ってゆくと、じゃがいもの皮をするする剥きながら、「あ、上手、上手」と弟が感心したように褒める。

「姉さん、器用だもんね」

にこにこ。

「キャベツも頼んでいい?」

にこにこ。

「おう」と次々と野菜を受け取りながら、エドもまんざらじゃない気分になってナイフをふるった。

「具が全部つかるぐらいまでお水を入れて、後は沸騰したら味を調えながら煮込むんだけど、味付け、姉さんやってみる?」

にこにこ顔の弟に塩胡椒とブイヨンの分量を聞けば、けっこう簡単そうだった。

「沸騰したら、火を弱くしてね。その間に、ボク、洗濯物を取り込んでくるね」

「よし、まかせろ」

エドは胸を叩いて請け負って、いつも食べてる弟の手料理の味を思い出しながら、真剣に味付けをした。記憶にある味に限りなく近い夕食が出来上がり、エドはそれを食卓に並べた。

「わー、美味しそう!」

キッチンに戻ってきた弟が、テーブルに並べられた夕食に、顔を輝かせた。テーブルについて、「いただきます」と行儀よく言う弟に、エドは「おう」と心の中で応えた。スプーンにすくわれたにんじんが消えてゆく唇を見つめながら、いつもとは違った気持ちでエドはどきどきした。

ゆっくりと咀嚼して、弟はにっこり笑った。

「美味しい。姉さん、味付けボクより上手だよ」

「そ、そうか?」

「うん。こんな美味しいポトフなら、毎日食べたいなあ」

「いつでも作ってやるよ、これぐらい」

「ほんと?」

嬉しそうに微笑む弟に、エドは「おう」と頷いた。弟がそんなに喜ぶなら、毎日だって作ってやると、エドは本気でそう思った。てゆーか、今まで料理に手を出さなかったのが悔やまれるぐらいだ。やってみりゃけっこう簡単だし、褒められて気分もいいし、なによりアルが喜ぶ。

「ポトフが食べたくなったら、姉さんが作ってくれる?」と、可愛らしくお願いされて、エドに否やはなかった。

「ポトフだってなんだって作ってやるよ」

























「というように、家事を手伝ってもらう時はとにかく相手が何をしても褒めることです。ぜったいに、叱ったり怒ったりしたらダメです」

日用品の買い物に寄った店内でばったり会った少年は、大通りのオープンカフェで紅茶のカップをテーブルに置いてそうまとめた。

「なるほどね。参考になるわ」

パートナーが家事を手伝ってくれないことを会話の流れでうっかり漏らしたリザに、少年は自らの経験からそうアドバイスしてくれた。確かに少年のやり方は、男のプライドを満足させてやりながら言うことを聞かせる有効な手法だった。

ただ、そのやり方がうまくいっている相手が、少年の兄ではなく姉な点にリザは若干の疑問を感じたが。

この調子で、今日はアイロンかけを覚えてもらおうと思うんです、とやる気まんまんの少年に、それは黙っておくことにした。
























お題「料理」/04.06.15 ハナ
*そんな番組が3時ぐらいにやってました。