It seems to be a boy















野原で子供たちが笑っている。

風に運ばれて土手を上がってくる可愛らしい声に、アルは小さく笑みをこぼした。

弟の足が遅くなったことに気づいて、数歩先を歩いていたエドは振り返った。高い位置で、やわらかな眼差しが川べりの野原で遊ぶ幼い少女たちを眺めている。

「あんなのが好みなのか? アル」

からかうのと本気で探りを入れるのと、半々の声に、アルが視線を戻した。

「懐かしいなって思ってただけだよ、もう」

むくれた声が否定するのに少しだけ満足して、エドは弟の見ていたものに改めて目を向けた。小さな女の子が数人集まって、熱心に摘んでいるのはしろつめ草だった。

「懐かしいって?」

「子供の頃、作ったよね。しろつめ草のかんむり。姉さん、上手く作れなくって、錬金術つかってウィンリィにずるしたって言われて喧嘩して」

「そこまで懐かしまなくていい」

くすくす笑う声に、今度はエドがむっとする番だった。エドとアルと幼なじみのウィンリィと、一番上手に白い花の冠をつくっていたのは、1つ年下の弟だった。

「つーか、覚えてねーのな」

「え?」と聞き返す小さな声に答えずに、エドは「おっし! 久しぶりに作るか!」とコートを翻して、なだらかな土手を駆け下りた。

























ぐずぐずと泣きべそをかいてしろつめ草のかんむりを拾う姉を、アルはおどおどしながら見上げていた。

男勝りな少女たちの喧嘩は、1つ年下のおっとりとした性格のアルに止めようもなく。幼なじみは泣きながら家へと走り去り、クローバーの野原に残った姉は、喧嘩の際にぼろぼろになってしまった花の冠を手の中に、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

つりあがった大きな金色の目から涙が零れ落ちるのを止めたくて、アルは自分の作ったそれを姉へと差し出した。

「ボクのあげる」

はい、と、受け取る手を差し出さない姉に、アルは自分が編んだしろつめ草をそっと押し付けた。

涙をためた大きな目がアルを見て、きっと、睨むように、口を引き結んだ。

「アルのじゃダメだ……」

「なんで?」

アルは小さく首をかしげた。ぼろぼろになってしまう前から、アルの作った冠の方が、姉の作ったものよりずっと上手に出来ていたのに。

「だって……」と口をへの字に結んだまま、エドは自分の足の先を睨むようにうつむいた。

「アルにあげたかったんだ……」

アルはそんなものをもらうより、姉が泣かないでくれる方がずっと良かったけれど。
それを言ったらなんとなく怒られる気がしたので、なきべそをかいている姉の側でじっと黙っていた。




















「よおっし、できた!」

「お姉ちゃん、下手ねー」

「へたっぴー」

すっかり少女たちの輪になじんだエドが、両手で掲げたしろつめ草のかんむりを膝に下ろした。

「いいの! こーゆうのは見た目より気持ちが大事なんだよ! アル!」

有無を言わさず呼びつける声に、アルは「やっぱりなのか」と内心でため息をついた。のろのろと立ち上がって、コートについた草を払って、のろのろと姉たちの待つ川辺に下りてゆく。

「ちょっと、そこ、座れ」

と、目の前を顎で指す姉に、やはりのろのろと弟は正座した。コートのすそが、クローバーの絨毯の上にふわりと広がる様に、エドは満足そうに口の端を上げて立ち上がった。

「ねえ、姉さん? 小さい頃や鎧の姿なら愛嬌あったかもしれないけど、今のボクにはぜんぜん似合わないと思うよ?」

正座したまま腰の引けている弟に、エドはにっこり笑って請け負った。

「大丈夫!ぜったいお前に似合うから!」

「……いじめっこ!」

「おとなしくしなさい!」

観念して首を竦める弟の金色の髪にしろつめ草のかんむりをのせて、エドは短い前髪に隠れた額にキスをした。

「きゃあー、お姉ちゃん、王子様みたーい!」

きゃあきゃあとはやし立てる小さな少女たちに、王子様のように笑って応える姉に、しろつめ草のかんむりを載せたお姫様は、がっくりと肩を落としてため息をついた。






















お題「男の子みたい」/04.06.04 ハナ
*ちょっと捻って「王子様みたい」