brother and sister














青白い練成光にアルの視界は真っ白になり、回復した視界に今度は頭の中が真っ白になった。








気を失わなかっただけ、自分のことを偉いと思う。


















がさごそと荷物をあさる音に、エドは目を覚ました。

眠い目を半分開くと、隣で眠っていたはずの弟の姿がない。はっとしてベッドの上に半身を起こすと、宿の床に脱ぎ捨てられたコートの真ん中に、弟がうずくまっていた。

シャツの背中に金色の髪がふわふわ揺れている。くせっ毛を嫌って幼い頃は短くしていた髪は、長く伸びると母譲りのゆるやかな波型を作っていた。

やっぱり、この結果は自分の願望のせいなのだと。エドは、弟の長く伸びた髪一つにもそう思い知らされた。

小さな頃から、エドは弟が髪を伸ばさないのが不満だった。それは口に出すほどのことでもなかったのだけれど、小さなエドは大好きな母親と大好きな弟がそっくりなのが嬉しかったので、大きな目や下がった目じりのほかに、ふわふわのくせっ毛もお気に入りだったのだ。小さいアルが母に似てれば似てるほど、それは、父親には似ていないという証明になった。

大嫌いな父親に大好きなアルが似ていないのが、幼いエドは嬉しかった。

きっと今でも、多分そう思っている。

アルの髪は長いほうがいい。

そして。


するりと、シャツが脱げて真っ白な背中が顕わになった。驚くほど細い腰へのラインに、エドは思わず弟の名前を叫ぶように呼んでいた。

「アル!」

「わっ!」

突然、大声で呼ばれて、びくっと、アルが肩を竦めた。そうっと振り返った大きな目が、二度三度と瞬いた。

「なんだ、兄さん、起きてたの?」

「……なに、やってんだ?」

「うん……、司令部に行くのに、なに着てったらいいかなと思って」

「ああ……、そっか。服、買わないとな」

それは最初から予定にあったことだった。アルの身体は失われた10才の時の姿形で練成されるはずだったので、衣類や靴やそういったものは練成後にサイズに合うものを用意することに決めていた。結果として、その判断は正しかった。練成光の後に現れたアルの身体は、14、5歳の、女の子のものだった。

「うーん。とりあえず、兄さんの服借りていい?」

そのつもりでいたのだろう。肩越しに首を傾げるアルの細い背中の向こうに、トランクが広げられていた。エドは起き上がって、ベッドの縁に座った。

自然と、大きな目がエドを見上げる。まるい肩にかかった金色の髪、細くて滑らかなラインを作る白い背中、細い腰の下でシャツがたわみ、そこから細い足が正座を崩すように床にぺたんとくっついている。

「アル……、シャツ着なさい」

「や、だから、着替えようと思うんだけど……」

「いいから、着ろ」

「着替えるのに」とぶつぶつ言いながら、アルははだけたシャツを着なおしてボタンをしめた。エドは心の中で深く息を吐き出して、立ち上がった。

弟が物色した荷物の中から、エドは黒い上下の服を取り出した。床に置き、なにをする気なのかと見上げる弟の目の前で、パンと手を打ち合わせる。

一瞬で現れて消える青白い練成光の後には、黒いワンピースが残った。

「ほら」

と、差し出された服から、アルは床に座ったまま身体を引いた。口が歪む形に引き結ばれている。

「……やだ」

「とりあえず、だよ」

「だって……、それ、スカートだよ?」

「おう」

「スカートは……やです」

大きな目が上目遣いに見上げて眉の端を下げる。ほだされそうになるのを、エドは鉄の私情でこらえた。

「ちょっとの間だけ、がまんしてくれ……すぐに、もどしてやるから……」

そう言って、自分の手の中へと視線を落として俯く兄に、弟は「兄さん……」と声を小さくした。

「って、だまされるわけないでしょ! おもしろがってるくせに!!」

「あったりまえだ! そんなん、なにが何でも元に戻すに決まってんだから、その間だけでも妹を持つ兄さん気分を満喫させろ!!!」

「ぜったいヤダ! ヤダヤダヤダ! 女の子の服なんか着るのヤダ!」



「着ろ!」「着ない!」を繰り返して、結局、宿を1歩も出ないまま、兄妹になりたての兄弟の二日目は終了した。



















お題「兄妹」/04.06.03 ハナ