your warmth



















トイレに起きて部屋に戻る。アルは月夜が照らすカーテン越しの明るい闇の中に、2つ並んだベッドを見つめて、ぼんやりと感動した。

ご飯を食べて、お茶を飲んで、お風呂に入って、眠って、トイレに起きる。お風呂とトイレは、身体のつくりが変わってしまったせいで、すんなりとはいかなかったが、それでもアルは感動した。

兄が造ってくれたこの身体は、性別が違ってしまってはいたが(そして、それはかなり根本的な大問題だったが)、人としての機能は何一つそこなわれていなかった。

熱さも冷たさも感じる。触れられれば、そうとわかる。今も、シャツから伸びた足の先で、はだしの指がじんじんと冷えていた。

アルは足早に自分のベッドへと戻った。

慣れない体のつくりにもたついてしまったせいで、アルのベッドはすっかり冷え切っていた。指をシーツに這わせて眉を潜め、アルはふと思いついて後ろを振り返った。

眉間に皺を刻んで眠る兄の顔。あっちのベッドはあったかいに違いない。

そう言えば、子供の頃もそうだったっけ。アルは兄のくるまるブランケットの端をめくりながら思い出した。喧嘩してまでとりあった2段ベッドなのに、トイレに行って身体とベッドが冷えてしまうと、アルは下の段に寝ている兄のブランケットにしょっちゅう潜り込んでいた。

兄の体温はあったかくって、小さなアルはそれが大好きだった。

「……うん……?」

ベッドの軋む気配に目を覚ました兄が、目を細めてアルを見上げた。

「兄さん、そっち寄って」

「……ん…って、アル!?」

「うん?」

きゅうにばっと、ブランケットを跳ね除けて起き上がった兄が、逃げるようにベッドの反対側に身を寄せるのを、アルは好都合だとばかりに「よいしょ」と空いたスペースに潜りこんだ。

「おまっ……、なっ、なにっ……!」

「なにって……。寒いから」

ブランケットを胸にひきよせる兄からそれを取り戻そうとして、アルはベッドの上に両膝をついて手を伸ばした。

「ば、ばか! 自分のベッドで寝ろ!」

「だから、寒いんだって」

「じゃ……、じゃあ、兄ちゃんがアルのベッドで寝るから」

「え、やだ」

視線をそらして、そそくさとベッドから降りようとする兄を、アルは自分でも思わぬ強さで引き止めた。

兄の動きが、ぴたりと止まった。おそるおそる振り返る兄の目が、自分の胸元からぎこちなくそらされるのに、アルは気づかなかった。
自分が着ているのは兄のシャツ一枚で、胸もとのあいたそこから中身が見えていることも。

「一緒に寝たらだめ?」

小さい頃みたいに、と、アルが続けた言葉に、ダメだと言いかけていたエドは口を閉ざした。歪んだ口もとと眉が渋い顔を作り、けれど結局はじっと見上げるアルに、根負けしたように目を閉じてため息を吐き出した。

「……ほら」

ベッドに横になりながら、エドはブランケットを半分めくった。
ぱっと表情を明るくして、アルは暖かいベッドにもぐりこんだ。

「あんま、くっつくなよ」

「うん。冷たいもんね」

釘を刺されて、アルは狭いベッドの中で冷えてつめたくなった身体が兄にくっつかないように気をつけた。けれど、ぐいっと力強く引き寄せられて、アルの視界はまっくらになった。

「に、兄さん?」

「違うよ、ばかアル」

アルの耳のすぐ近くで、兄の声がこもって聞こえた。

「あったかいか?」

「うん……」

布越しに伝わる兄の体温に身を寄せるように顔を近づけると、少し早い鼓動が聞こえてきた。

「なんか……、安心する」

兄の鼓動と体温に、魂ごと包まれているような気分になって、アルはうっとりと目を閉じた。

「おやすみ、兄さん」

「おやすみ」と、そう答えて返す兄が、とうてい眠れそうにないと思っていたことなど知らずに、アルはゆっくりと眠りに落ちた。























お題「ぬくもり」/04.06.03 ハナ