「いい天気だなぁ」
「眠くなる?」
「うーん」
待つ時間とは長く感じるもので、そこにひたすら暖かい陽光と、そよそよと穏やかな風なんて吹いていたら眠くなるのは自然の摂理だと言える。
魂だけになった弟が眠くなるわけではないのだが、隣で兄の様子を観察していればそれはすぐにわかる。
瞼が重たげに下がってきて、くらりと眩暈のような浮遊感が、兄の意識を奪おうとしていた。
「寝てればいいよ。呼びに来たら起こしてあげる」
「んー」
鎧に寄りかかったエドワードは瞼が落ちてくるのに任せて、ぼんやりと視線を漂わせた。
緑鮮やかな芝生に、ところどころ葉の違う草が生えていて、黄色い花が咲く。
降り注ぐ陽光。高く鳴く鳥の声。隣に弟。
「アル、日陰で寝ないと…」
アルフォンスは途中で途切れた言葉の続きを期待して、兄を見た。くう、と小さく寝息を立てて、すでに兄は眠りの底に沈んでゆこうとしている。閉じた瞼の白さが陽に当たって強調される。
幼い彼等の柔らかな白い肌は、春先でもよく日に焼けて赤くなった。まだ元気に優しい笑顔の母親は苦笑しながら冷やしてくれて、火照る肌に与えられる冷たさと、髪や服に残る日の匂いの暖かさがどうしてか嬉しくて、懲りずにまたひなたで陽光を浴びる。
日陰で寝ないとほっぺたが赤くなるよ、と二人で意味ありげに言い合って笑いながら、うとうととまどろみに身を任せる遠い日の春の記憶。
04/02/28 さえきひなさん from prompt
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