E.E
※パーフェクトガイド収録の落書きより。「心優しいアルフォンス少年と宇宙からきた小さい生物の心あたたまるストーリー」






















「ただいまー」とキッチンにいる母に声をかけて、アルはがしゃんがしゃんと足音をさせていちもくさんに階段をあがった。

学校に行く前に覗いた時には、クローゼットの中に隠しておいた小さな生き物はよく眠っているようだったけれど。

昨夜、母からおつかいを頼まれて買い物に行った帰りに、アルは流れ星が森に落ちるのを見た。どーんとすごい音がして、アルは急いで自転車で森に向かった。学校で習って、アルは流れ星が隕石であることを知っていたから、宇宙から飛んできた星の欠片がほしかったのだけれど。アルが森の中で見つけたのは、小さな生き物だった。

バタン、と開けた自室のドアを、アルは背中のうしろに急いで閉めた。

「な、な、な、なにしてんの!!!???」

「おう、お帰り。アル」

TVの前であぐらをかいていた例の生き物が、ポップコーンの袋に手をつっこみながら振り返った。人間みたいに見えるけど小さくって、金色の三つ編みを赤いコートの背中にたらしている。前髪が一束だけ、触覚みたいにぴんと立っていた。

「あ、ただいま……って、なんでおやつ食べてんの!? TV見てんの!? しゃべれるの!? てゆーか、ボクの名前っっ!?」

「ああ、名乗れって?」

ポップコーンをほおばりながら、金色のつりあがった目が納得したようにアルを見上げた。

「エドワード・エルリック。とりあえず、俺のことは『お兄ちゃん』でいいぞ」

「ええ!!??」

大きな態度でそう名乗った小さな生き物を前に、エルリックって、ボクとおんなじ苗字なんだなあ、とかどこかのんきに考えながらもアルの頭の中は混乱していた。

「な……、なんで、エドワードの愛称が『お兄ちゃん』なの?」

パニックになっているだけに、アルがつっこみどころを外した質問をすると、小さい生き物のエドワードは釣り目を軽く見張った。

「エドワードの愛称って言ったら、エドに決まってるだろ」

と、ものを知らない弟に教えるように、そんなことを言う。

「だって……、じゃあ、なんでお兄ちゃんなの?」

そんなこと知ってるもん、と思いながら、自然と拗ねた口調になったアルに、エドは口の両端をやわらかく上げて自信たっぷりな表情を浮かべた。

「俺、お前のことを守ってやるって決めたから。ずっと一緒にいて年下のやつのことを守ってやるのは「お兄ちゃん」だろ」

えへん、と。そんな効果音が聞こえてきそうな口調でそう言って、エドはにかっと笑った。

「俺さあ、宇宙船が故障してこの星に流れ着いてさ、多分、もう自分の星には帰れねーし。アルには拾ってもらった恩もあるし。だからお前と一緒にいて、お前をずっと守ってやることにした」

そんなこと笑って言うことかな、と思ったけれど、アルはうまく返事ができなかった。だって、自分の星には帰れないって、すごくつらくて悲しいことをこの人は言った気がしたから。その後の台詞はおいといて。

「もう……、家には帰れないの?」

「おう! 着地のショックで宇宙船は粉々にふっとんだからな!」

任せろ!と請け負うように答えて、エドは胸を拳で叩いた。

「アルとずっと一緒だぞ」

にっこり笑うその顔がなんだか嬉しそうで、アルは「結構です」と断りそびれてしまった。

「それと、『お兄ちゃん』って呼ぶ時は、上目遣いで甘えるような感じでな」

「……なにそれ……って、ボクのゲーム……!?」

TVの前に置かれたPS2に気づいて、アルは声を上げた。

「ああ、保健室の女の校医と担任の女教師の好感度は下げといたから。お前、趣味悪いぞ」

「勝手なことしないでよ!!」

ってゆーか、その影響なの!? 妹キャラ萌え!!??

と心の中でつっこんだアルが見下ろす先で、「やっぱ、妹キャラだよなあ」と、小さな生物は緩んだ表情で何もない天井を見上げた。

アルはくらくらと眩暈を覚えた。なんなのこの人。

「アルー、晩ご飯よー」

ガチャリとドアが開いて、母親がひょこっと顔を出した。小さな変わった生き物を拾ったことは母には内緒だった。

「か、母さん! えっと、これはね、あのね……」

アルは母を振り返り、両手をわたわた動かした。友達…っていうには小さすぎるし、目つき悪すぎるし、態度でかすぎるし、なんて言って誤魔化したらいいんだろう!

「エドも早く下りてらっしゃいね」

慌てるアルに、母はにっこり笑ってドアをしめた。「ほーい」と、小さな生き物が調子よく返事をして立ち上がり、ドアから出てゆく。

「えっ? えっ? なんで、母さんが知ってるの?? ちょっと、待って……」

呼び止めようとして言葉につまったアルに、ドアノブを握ったまま振り返った生き物が口の端をにやりと上げた。

「『お兄ちゃん』だろ?」

なんだかむやみにかっこよく笑ってドアを閉じた生き物を、アルはわけのわからないまま呆然と見送った。



ボクはなんだかとてもやっかいなものを拾ってしまったみたい、です。

















04.7.1
7月の拍手お礼です。
その後、政府やら研究所やら迎えの宇宙船やらをぜんぶ追い払ったE.Eは末永くアルフォンス少年と幸せに暮らしました。