鋼で夏のお題 「海」 
さかのぼって夏休み前


















「却下!」

「なによー! 夏って言ったら海でしょ! なんでダメなのよー」

ぶーぶー文句を言う幼なじみを、アルフォンスは「まあまあ、ウィンリィ」と宥めた。

「アルだって、海に行きたいでしょー」

めずらしく兄ではなくウィンリィに引っ張られて、高等部の兄の教室につれてこられたかと思ったら、そういうことらしい。

一つ年上の幼なじみのことを、アルフォンスは大好きだったので彼女の思惑通りに援護してあげたいけれど。

「どうして、ダメなの兄さん?」

椅子に座ってふんぞり返っている兄を振り返って尋ねると、むすっとした顔は窓の外を向いたまま、「アルが日に焼けるから」と答えた。

「そんなの、日焼け止め塗ればいいじゃない!」

「肌に悪い」

「エドのわからずやー! もういい! エドなんかほっといて、二人で行こ! アル!」

「わっ」

首にまわった腕にぎゅっと引き寄せられて宙を掻いたアルフォンスの手を、兄の手が掴んだ。

「ダメったらダメだっ!」

容赦なく引っ張るエドワードに負けずに、ウィンリィもぎゅうっとアルの身体を抱き寄せた。

「いた、痛いよ、兄さん! ウィンリィー!」

二人に引っ張られてアルフォンスがたまらず悲鳴を上げると、「あっ、ごめん!」と慌てて、ウィンリィが腕を解いた。

アルフォンスの身体は、兄の手の中に転がり込んだ。弟の頭を両手で抱きこんで、エドワードは大人気なく舌を出して見せた。

その一瞬の気の緩みに、エドワードの手の中から弟の身体が引き剥がされた。

「ロックベルが本当のお姉さんだな」

猫の子のようにアルフォンスのシャツの首を掴んだ教師は、涼しげな顔でそう言って、ウィンリィへと引き渡した。

「なんだよそれ! 俺がアルの兄貴に決まってんだろ!!」

「なんだ、知らんのか? 子供が痛いと言って手を離した方が本当の母親なんだぞ」

「知るか! んなもん!」

「アル、本当のお姉ちゃんと夏休みに海行こうね」

「勝手に話すすめんなー!!」

「そうしたまえ、姉弟水入らずで行くといい」

「てめえはひっこんでろ!」

「お姉ちゃんと海の家でやきそば食べようねー、アルー」

「ダメだーーー!」

両手をしっかり握ってにこにこ顔のウィンリィと、今にも血管が切れそうな顔をして叫んでいる兄と、涼しげな顔で火に油を注ぐ教師とに囲まれて、アルフォンスはなんだかすっかり疲れてしまった。



夏休みは、静かな場所でのんびりしたい。

























04.8.8
アルの水着姿を他の人に見せたくない兄の反対により海には行けない方向です。