鋼で夏のお題 「キャンプ」 










子供の頃、海の近くのキャンプ場にテントを貼って一泊する夏休みの臨海学校に、アルは前日になって熱を出して行けなくなってしまったことがあった。

ベッドの中でベソをかくアルを、母は優しくなぐさめて頭を撫でて、一つ年上の兄は弟のベッドの上に天井から大きなシーツを張って、ランプを吊るした。まるで、大きなテントみたいに。

シーツのテントに母は少し驚いて、それから笑って、兄のリクエスト通りにカレーを作ってくれた。
アルは兄と一緒に晩ご飯にカレーを食べて、ベッドの上でゲームをして、それから夜は枕を並べて眠った。

キャンプごっごは楽しくって、楽しみにしていた臨海学校に行けなくなって悲しかった気持ちは、いつの間にか小さなアルの中から消えてしまっていた。




















物音に気づいて、アルはうたた寝から目を覚ました。

ベッドから見上げる視界には自室の天井が映るはずだったが、目に入ってきたのは真っ白な布だった。昼間のはずなのに、陽光が遮られて薄暗い。

開ききらない目を、アルは訝しさに細めた。

「なに……?」

寝起きと、それに昨日からひいてしまった風邪のせいとで掠れた声が呟くと、布の向こうで動いていた影が止まった。

「起きたか、アル?」

「兄さん……」

どこか機嫌の良い兄の声に、アルは視界を覆うそれが何かを理解した。懐かしい記憶が甦る。たしか、アルは小学校1年生だった。ってゆーか。


この人、ボクのこといくつだと思ってるんだろ。


確かに、アルは今日から3日間の臨海学校に風邪をひいて行けなくなってしまったけれど。もう14歳で、中学3年生だ。そりゃあ少しは残念だし、キャンプにも行きたかったけど。それで泣きべそをかくような小さな子供ではもうないのに。

天井から吊るしたシーツの切れ間から、兄がひょいと顔だけを覗かせた。

「昼はカレーだからな」

シーツのテントの中で一緒に食べる気なのだろう兄のやる気に満ち溢れた顔に、アルはやれやれと思いながらも、「楽しみにしてる」と応えた。


弟の返事に、エドは満足そうに口の端を上げて笑った。




















04.10.29
兄さんにとって弟はいつまでも弟というか、兄さんはアルが臨海学校に行けなくなったから機嫌がいいんだと思います。