大佐30 TEXT
20 睦まじい




























中庭で子供たちが遊んでいる。

そこが軍の施設内であることと、豆粒のように小さな子供が最年少国家錬金術師であることと、もう一人の子供が2メートル20センチの鋼の鎧であることをのぞけばほとんど残らなくなってしまったが、ともかく、雲ひとつない青空のもとで緑色の芝生の上にじゃれあう兄弟の姿は、その状況だけを考えればなんとも微笑ましかった。

司令室の窓に両肘を預けて頬杖をつき、ロイ・マスタング大佐は、半眼を中庭に向けてどこから見ても、ぼーっとしていた。

「いーじゃねーかよ、ちょっとぐらい貸してくれたって」

「やだよ、それ僕が読んでるんだから、返して。兄さんは自分の読めばいいでしょ」

「飽きたー!」

「それ10回目、いい加減にして」

鎧の弟から分厚い本を奪う事に失敗した兄が、芝の上をごろごろ転がった。「服が汚れるってば、もう!」と鋼の腕が伸びて兄をつまみあげる。

芝生の上に重ねあげられているのは資料室内の蔵書に違いなく、書架に囲まれた薄暗い部屋から陽の当たる中庭へと兄を連れ出したのは鎧の弟に違いなかった。しかし、先ほどから兄の方は数ページほど読んでは飽きたのなんのと弟にちょっかいを出し、その度にたしなめられていた。

集中力には折り紙付きの天才錬金術師が、本1冊読み終えるのにそうそう飽きるわけがない。弟に構われたくてやっているのだろう、あれは。
そうして、知ってか知らずか、弟はいちいち兄を構ってやっては小言を言ったりたしなめたりの繰り返し。

「なんとも睦まじいねえ」

弟の方には異論があるかもしれないが、はた目にはそうとしか見えない光景だ。

「窓の外に何か面白いものでもありますか、大佐」

「退屈な報告書よりも面白いものならいくらでも」

「その報告書に本日中にサインして頂かないと、3時間ほど退屈な残業をすることになりますが、よろしいですか?」

「君と一緒にいられるなら退屈な時間などないさ」

「本日は定時で失礼します」

「上司に残業を言いつけて帰る部下がどこにいるのかね」

「大佐のお手元で書類が止まっているので、今日はもう仕事がありませんから」

往生際悪く、いまだ窓辺に置いた椅子に座ったまま振り返る渋面を、居室の入口近くのデスクから、ハボックは肩肘で頬杖をついて眺めた。

「またさぼって怒られてるんですか?」

書類を抱えて入ってきた曹長が、入口で足を止めた。大佐か中尉かどちらかに用事があるらしく、困ったように窓辺のやりとりを伺っている。

ハボックは眉を下げる横顔を見上げ、また視線を戻した。


「構われたくてやってんだろ、ありゃ」


中尉の方がそこら辺をどのぐらいわかっているのかは謎だったが。まったく、仲の睦まじいことだ。





























04.3.10
大佐好きにム行30のお題の中から20「睦まじい」です。わたし、お題に向いてない人間なような気がしてきました。こう、広い意味で解釈するような話が書けない…病? アイロイでエドアルです。