今日の出来事
























「あれ?」と何かに気づいたような声が聞こえて、ハボックは顔を上げた。

「禁煙ですか? ハボック少尉」

散らかった机の上を見下ろして、フュリー曹長が眼鏡の奥で目を瞬き、小さく首をかしげた。

ハボックは空箱のへこみを、指先のやり場を持て余すようにとんとんと叩いた。

「懐具合が寂しくってねぇ」

「給与支給日は来週ですからね」

財布の事情はどこも同じと言うように、フュリーは人の良い笑みを浮かべた。口の端だけ上げて返すと、子供の歓声が聞こえてきて、ハボックは椅子に座ったまま背後を振り返った。

「おい、アル! 今のズルしたろ!」

「してないよ。兄さんがわかりやすすぎるんだよ」

片手に残ったカードを振り回しながら難癖をつける兄を、弟がいいかげん慣れた様子であしらっている。
トランプを集める鎧が、首を傾げながら「もう一回やる?」と尋ねると、眉間に皺を寄せてむーっと唸っていた兄が、「やる!」とカードを突き出した。

「ばば抜きかな?」

微笑ましい、と言葉ににじませて、小さな子供が遊んでいるのを見守るようにフュリーがにこにこと笑った。
大きな手が器用に混ぜたトランプを分け、手札を広げる。一対一のゲームはあっという間にジョーカーと札2枚を残すところになった。

2枚のトランプの上で鎧の指が行ったり来たりする度に、持っている方の表情が険しくなったり明るくなったりする。大佐待ちの間中、兄が一度も勝負に勝てない理由は弟の言うとおりだった。

兄の表情が何度目かに険しくなったところで、弟はカードを引き抜いた。

「ぎゃー!!!」

また手の中に残ってしまったジョーカーに、悲鳴があがった。

「あーあ、あんなに顔に出しちゃってちゃ、何回やっても勝てませんよねえ」

子供ですねえ、と。口元に手をあてて控えめに吹き出すフュリーに、ハボックは小さく肩を竦めた。

その子供相手にポーカーでボロ負けして小銭まで巻き上げられたのは、つい昨日のことだった。

完璧に表情を抑え、かまをかけられてものらりくらりとかわしていた可愛げのない子供が、弟相手のばば抜きでは手の内を全て表情に出して、ぎゃぎゃー言いながらボロボロに負けている。それが、わざとじゃないときているのだから。

「カモられた上に惚気られたんじゃあ、やってらんねえよなあ」

首を竦めたまま子供たちに背を向けると、傍らのフュリーが怪訝そうにハボックを見下ろした。問いかける視線に答えずに、ハボックは煙草の空箱を指ではじいた。


「あー、煙草吸いてぇー」


遠い目をして宙を見上げるハボックを、困ったようにフュリーが見下ろした。二人の背後では、「もう一回勝負だ!」とムキになった声が再戦を要求し。

応えた相手は、「はいはい」と、鎧の肩を小さく竦めた。
















04.4.23
アルと一緒の時のエドがそんな風だったらいいなあーと、帰る途中の山手線で隣に座ってた男の子がケータイでトランプやってるのを見ながらこんなこと考えてました。