エドアル 10 TEXT
大好き

























「なんてゆーか、表情豊かな弟だよな」

中庭に面した廊下の窓の前に立ち止まっていると、並ぶように傍らで足を止めた相手が煙草をくわえたまま腰をかがめた。
まるで、小さな子供と視線を揃えようとする仕草は天然なのか嫌味なのか、相変わらずつかみ所がない。
エドは黙って、窓から見える光景へと視線を戻した。

中庭は午後の光にあふれ、手入れの行き届いた緑色の芝生が輝き、甲冑の背中も頭部もぴかぴかと輝いていた。

「わ! いたた! こらっ、噛んだらダメだろ、ブラックハヤテ!」

到底本気で怒れない甘やかした声が、袖口に小さな口で噛み付いている子犬を叱った。
鈴の転がるような愛らしい笑い声が続き、「ほら、ダメだよ」と甘い声でたしなめる。

小さく首を傾げて、両手を差し出す仕草に、子犬がぱっとフュリーの袖を離して駆け寄った。抱き上げて、優しく頭を撫でて、楽しそうに笑う声。

「笑ってる顔が見える気がしてくるもんなあ」

「あいつは、昔っからああだったよ」

中庭を眺めたまま、エドは眩しさに目を細めるように眉を寄せた。

声と仕草だけが感情を表現する手段となる前から、自分の気持ちを伝えることに、一つ年下の弟は長けていた。

嬉しい時には満面の笑みとともに愛らしい声を輝かせ、足取りさえも浮き立つように華やぐ。寂しい時は眉を下げてぴったりと寄り添ってきて、怒っている時は毛を逆立たせる猫みたいに小さな体をぴりぴりさせて、大きな目できつく睨みつける。


そして、両手を伸ばして、体をぶつけるみたいに力いっぱい抱きついてきて伝える。


「大将?」

ふいに、無言で窓辺から離れたエドを、背後からハボックが呼び止めた。

鎧の姿になっても、弟の豊かな感情とその表現は損なわれることはなかった。東方司令部の一部の軍人たちのように、しばらく接すれば誰もがアルの表情のない鎧の面を気に止めなくなる。

けれど、エドは知っていた。

花のように白くてやわらかな頬を、桜色の唇が弧を描いてできる小さなえくぼを、瞬きのたびに音がしそうな長い睫を、優しく目じりの下がった大きな瞳を。それらがめまぐるしく作る、幾通りもの表情を。









両手を伸ばして抱きついて、
「大好き」と伝える、やわらかな体の全てを。

















訝し気な視線と弟の笑い声が追ってきたが、エドは振り返らなかった。




























04.4.25
大好きはあえて切ない感じで。新OPのあの抱きつかれ倒される兄と飛びつく弟がたまらなく好きです。曲のエド→アルっぷりも大好きで、今後はそうゆう展開なんですね!とむやみにテンションあがりました。