猫2 ※お題「猫」の続きです。










あ、猫背。


と、いきなり何か思いついたように声を上げた弟を、エドはページを捲る手を止めて振り返った。ベッドの上に寝転がって広げた本は、ぜんぜん読み進んでいなかった。

東方司令部で査定のレポートをでっちあげている間に、中庭に待たせていた弟に虫がたかっていた。すぐに追い払ったが、「今の話は鋼のには内緒にな」と去り際に目を細めて笑った顔がうるさいハエのように脳裏にちらついて、宿に帰ってからもエドを落ち着かなくさせていた。何を話していたのか気になる。聞きたい。けど、頑固な弟は、可愛らしい声で話題を変えては、大佐と何を話していたのか教えてくれなかった。ちっちゃい頃からそうだ。自ら兄に秘密を作るようなことはしないが、幼なじみに「秘密ね」と約束させられると小さな弟は決して口を割らなかった。

「猫背がどうしたよ」

ベッドの上にちょこんと正座して、乾いた洗濯物をたたんではトランクにしまっていた弟が、「え?」と聞き返した。

「あ、ううん。なんでもない。それより、明日早いんだからもう眠った方がいいよ、兄さん」

ほら、まただ。いったい、何の話をしていたのか知らないが、本当にむかつく。もちろん、「できた!」と可愛らしい声で小さく言って、旅の支度を終え、トランクを閉じた弟にではない。

だから、東方司令部に来るのは嫌なんだ。

大佐の子飼い同然の部下とは顔なじみになりつつあり、最近は犬もいて、アルが楽しそうにするから連れて行くけれど。そうじゃなかったら、あんな奴のいるところになんか。

「イーストシティにはしばらく戻ってこれないね」

かしゃんと金属の足音をさせて床に下りたアルが、サイドテーブルの上のランプを小さく絞った。オレンジ色の灯りが暗くなり、エドは本を閉じて枕の横に押しやった。

「当分、大佐の顔を見ないですむと思うと、せいせいするぜ」

「また、そんなこと言って」と、呆れたように返った声が、何かに気づいたように小さく笑った。

「なんだよ」

振り返って視線を上げると、小さな灯りに照らされた鎧が首を振った。

「なんでもない。おやすみ、兄さん」

「ん」

納得はしなかったが、問いつめたところでアルは決して話さない。枕に頭を乗せ、猫のように背中を丸めて、エドは目を閉じた。


















04.5.16
やっぱり、兄さんは猫に似てるかなあと思うアル。
20分で書いたので、原稿のロスにはなってないはず!!!安西先生……!