エドアル 10 TEXT
体温















海みたいに青い空に太陽が輝いて、裏庭の隅ですくすくと伸びた葵が白や赤やピンクの花をわずかな風に揺らしていた。

季節は夏で、ボクらがいるのは故郷の幼なじみの家だった。遅々としているとはいえ成長期にある兄さんの機械鎧がいよいよ身体に合わなくなったので、新しいものに交換するのだ。

装着しなおす時の痛みもそっちのけで、兄さんはご機嫌だった。けれど今は、ここ数年で一番の猛暑にすっかりまいって裏庭の日陰の中でぐったり寝転がっている。芝生の上にあぐらをかいて座るボクの膝の上に、頭をあずけて、ぐったりと。

「ううー、あぢー」

言われてもわからないけど、見ればすごく暑いんだろうなということはアルにも想像できた。パンツ一丁の上半身にも、アルの鎧にぴったりとくっつけている顔にも汗が粒になって浮いている。

空気の熱さがわかるような、そんな暑さ。アルは遠く昔の記憶を引っ張り出して、想像した。母さんが、バスタブに水をはって小さなプールを作ってくれたっけ。

「うー」と、唸りながら、兄が頭をアルの膝の方へとずらした。熱が移ってぬるくなると、兄の頭はそうやってちょこちょこアルの腿の上を移動した。兄がそれまで頭をのせていた場所を、アルはそっと指でさわってみた。

もちろん、アルの指には鋼の表面に移った体温はわからないけれど。そこは、今、ちょっとだけ温かいのだろう。兄の体温が移って、アルの体温が少しあがって。

それは、懐かしい記憶に繋がった。アルの方が少し平熱が低かったせいで、夏は涼しいと言ってよく兄にくっつかれた。冬は冬で、あったかいだろうとくっつかれて。

アルは日陰の中から、美しく青い夏の空を見上げた。

人の身体も、鎧の身体も。
今も昔も。

変わらない。

「あー、あぢー」

呻くように言う兄に、アルは水浴びを勧めようと思っていたのを、なんとなく言わなかった。

代わりに、兄より低い体温で、兄の頬をそうっと包んだ。

「気持ちいい?」

「あー、気持ちいー。涼しー」

アルの右手に左手を重ねて、目をつむったまま満足そうに微笑む兄の顔は、子供の頃とおんなじだった。




















04.7.3
体温。