拍手














振り返った顔が、アルを見上げて思い切り歪んだ。


「嫌味かよ」


ふい、とそっぽを向いた顔を追いかけて、金色の三つあみが揺れる。
アルは「そんなんじゃないってば」と答えながら、宿のベッドの上に買い物の紙袋を下ろした。

反対側のベッドには、あぐらをかいて座る兄。左手には、オイルの染み込んだ布。

故郷の幼なじみにうるさく言われても手入れをさぼってばかりの兄だったが、今日は珍しく宿につくなり機械鎧の手入れを始めた。アルが買い物から帰ってきたのは、ご機嫌な兄が鼻歌に歌詞までつけたところでだった。


「拍手ってのが嫌味なんだよ、すでに」


ご機嫌ななめになってしまった兄の頬が、うっすら赤くなった。

アルの兄は、正直、歌が下手だった。母もアルも音痴ではないのに、なぜか兄だけは何を歌わせてもものの見事に音程を外す。


「そりゃあ、上手いとは思ってないけどさ」


アルが事実を答えれば、兄はむっと表情を歪めてますます機嫌を悪くした。自分で言ったくせに。


でも。


「兄さんの下手な歌が好きなの」





だから、もうちょっと歌ってよ。とお願いすると、耳まで真っ赤にした兄は、後でな、と怒ったように答えた。




















2006.1.22

拍手お礼の小品です。