やさしいひと 3

























紅茶のカップを目の前に、一瞬、固まったエドは、ぎゅっと口を引き結んで覚悟するように手を伸ばした。

息を吹きかけて、おそるおそる口をつけて、一口飲んで。

舌先から広がるいつも通りの苦味のない味に、ほっと肩の力を抜いた。

「どうしたの? 兄さん」

宿に備え付けのティーサーバーで紅茶を入れてくれた弟が、テーブルに広げた本から顔を上げた。

「いや、別に」

口ごもるのを誤魔化して、エドは紅茶を口に含んだ。

甘いものを好むわけでもなかったが、苦味のある味が好きではないエドの好みにあわせて、弟の淹れる紅茶は苦味が出ない分量と正確なタイミングで、ポットからカップに注がれる。

昼間、あんなことを言うから、てっきり不味い味のお茶が出されるのかと身構えていたのだが、杞憂だったようだ。

自分が不味いお茶を淹れたら、飲むか。それとも、捨ててしまうかと。

答えは、決まっている。



たとえ毒が入っていても、残らずすべて飲み干すに決まっていた。



「そう言えば、大佐も苦いのは好きじゃないんだって。兄さんと一緒だね」

「あんなヤツと一緒にすんな! ……って、なんでそんなこと知ってんだよ」

「アレ? えっと、えーっと、中尉が言ってた、かな?」

あわてて誤魔化して、本を胸に引き寄せる弟に、エドはカップを置いてソファから立ち上がった。

「かなって、なんだ、かなって! 大佐となに話してたのか、隠さずお兄ちゃんに言いなさい」



「なんにも話してないってば!」と言い張って、頑固な弟は結局口を割らなかった。














04.02.03
アンケートお礼でした。